犬の脚の万年筆

犬が前脚の爪でがりがりと地面に刻み込む日記です

病棟にて

ここ一ヶ月、さほどオオゴトではないものの

ちょっと肉体的苦痛を伴う手術を何度か行った。

 

命に関わるようなものでは全くないものの、

苦痛といくつかのリスクは伴う施術だったので

生来の不安を感じやすい性質も重なり、心は暗く沈みこんでいた。

実に不幸な年越しだなあと。

 

数時間はかかるかもしれないということで、

施術は一般診療時間外である午後から始まる。

 

そんな時間帯であるから他の患者さんたちも大きな傷病を抱えた方が多い。

大半の方は自立歩行できない状態だ。

 

体中に管を通し呼吸の苦しそうな人。

全身火傷で顔の一部も失った女性。

 

本当に不幸を嘆いていいのはこの方たちだと思った。

僕のような症状はまだまだ「幸運」なほうなのだなあと。

 

人の感じる禍福。その基準は相対的なものだ。

強い患部の痛みを感じている間は

普段抱えている精神的な苦悩などは

実に些細で無意味なものだったと痛感(文字通り)する。

 

しかし恥ずかしいかな、

術後徐々に痛みがひいていくと

それとバトンタッチするかのように

再びかつての心の痛みが胸を覆い始める。

人の業なのか僕の業なのか。

 

劇的な心境変化とまではいかないにせよ

あの感覚はぜひ覚えておきたい。

 

今感じる不幸はより強い苦しみの中ではほとんど無意味な些事なのだ。