犬の脚の万年筆

犬が前脚の爪でがりがりと地面に刻み込む日記です

非存在の祭囃子

夏の夜
住宅街から離れた闇の果てより
祭囃子が聞こえ
ええじゃないかの音頭に加わる農夫のごとく
ご禁制への嘆き一枚を痩身に纏っていた僕は
音のするほうへ歩く

もう少しで祭りの風景が目に入るかと思ったあたりで
ふっと音頭が止んだ
たぬきにでも化かされたか
いよいよこれは江戸の農夫風の夜だなと思ったが
どうも閉会したらしい

町の明かりも祭りの明かりも届かぬ路地の
闇に滴る夜露の水面に
僕は、永遠に知ることがかなわなくなった
その祭りの情景を思い描く