自分を責め続けている間、線の一本すらまっとうにひけない。 対して責めることを忘れている間、努力することのいかに楽なことか。 どんなに無残な有様でも自分だけは 自分の作品を世界を感性を責めず褒めてやらなくては。 不遇を凝視しない無思考だけが不遇…
砂浜を行く夢をよく視る 波打ち際には点々と貝殻やカニの穴が見えるが私にはもはやそういった風情の姿形を豊かな質感を確かめる心はなし 心ポケットが破れていたせいだどこに落としてきたのかみすぼらしい姿形のものであったから清掃員に吸殻と間違われ掃か…
小夜の河岸をとぼとぼ歩いていると 「聖」という語の語源はもしや「日知り」なのではないかという思い付きがふと頭をよぎる 古代の農耕文化において天候を知るものは聖者にも等しい存在だったのではないかと いつもの拙い連想遊びだとは思いつつ調べると ど…
夏の夜住宅街から離れた闇の果てより祭囃子が聞こえええじゃないかの音頭に加わる農夫のごとくご禁制への嘆き一枚を痩身に纏っていた僕は音のするほうへ歩く もう少しで祭りの風景が目に入るかと思ったあたりでふっと音頭が止んだたぬきにでも化かされたかい…
少し冷たいこの季節の夜の風が窓から吹き込んだ瞬間 小学生の頃通っていた英語塾の帰り道に感じた風の感触を 克明に思い出した。 僕の肌を吹き抜け遙か記憶の地平に吹き去った風が 複雑な気流の乱反射の末、今しがた窓辺に帰ってきたのだろう あの日感じた、…
誰かが読んでいた小説の中からころっと落ちたのだろう 1890年代カリフォルニアの夕日を焼け付けた銅色のコインが 公園のベンチに夕焼けを待っている
午前5時、僕は海岸で一人結婚式を挙げていた。 式の準備段階ではなかなかみな楽しげな雰囲気だったのだ。 しかし、僕ごときにそのような幸福があるはずもないとふと考えたせいだろう 当日式場に向かってみれば、荒れ果てた岩肌と 海洋のごとく広大な黄色の…
近所の裏庭に打ち棄てられている真っ赤な革のソファー。 昨日の空に訪問してきた雪たちが、今朝の太陽と挨拶して立ち去ったあと、 そのソファーの上にだけまだ少し雪が残っていた。 座り心地がお気に召したのだろう。 ソファーも純白の主を迎え誇らしげだ。 …
誰もいない夜の公園で、風見鶏が風に煽られクルクルまわっていた。 なんとも感慨深い情景だ。 無声の闇中を染めていく、カラカラとした回転音 この感慨の一部はいわゆる「ワビサビ」なのだろう 古池や蛙飛びこむ水の音 この句で、古池という静寂の空間に染み…
キットカットの個包装の裏面に、 メッセージを書ける欄が付いてるのに気づいた。 「きっと勝つ」のもじりとほどよいサイズで 差し入れに使われることを、 前提にした機能なのだろう。 同様に、万物にメッセージ欄を貼り付ければ 全てのものは誰かへの手紙に…
ここ一ヶ月、さほどオオゴトではないものの ちょっと肉体的苦痛を伴う手術を何度か行った。 命に関わるようなものでは全くないものの、 苦痛といくつかのリスクは伴う施術だったので 生来の不安を感じやすい性質も重なり、心は暗く沈みこんでいた。 実に不幸…
僕は、周辺の意向に過剰に同調しようとするアデプトチャイルド的傾向がある。これはじつに大きな障害だ。 人様の機嫌を損ねることを極端に恐れて、主義主張の異なる人たちの群の中に立つと、口をつぐむしかなくなる。そのルールでいくと、人の数が増えるほど…